シェリーとビスケット [シェリー]
ぼくはギターを愛している
ギターの音色はまっすぐに胸の奥にひびく。
「アルハンブラの思い出」を作曲した フランシスコ・タレガの逸話が好きだ。
ある日タレガが練習していると 幼い息子がこう告げた。
「パパ、おもてに怖い人がいるよ。」
タレガは練習の手を止めしばらく考えて言った。
「その人にお入り、といいなさい。」
みじめな格好の男がおずおずと入ってきた。
「お許しくださいませ。きれいな音が耳につきまして・・・・。」
「あなたは音楽が好きなんですね?」
「さいでやす、旦那。」
「急がないなら聴いていきなさい。」
家から家へと施しをねだって歩く物乞いの男に タレガは椅子をすすめた。
一曲弾いたのち、 両目がすっかり潤んだ客人に
数枚のビスケットとシェリー酒をすすめた。
男は感謝と幸福に満ちて 音楽に酔いしれた。
上流階級に暮らす人も腰掛けた、
その同じ椅子に物乞いもまた、座ったのです。
マエストロ・タレガのギターは全ての人に
同じ芸術、喜び、感動を伝えました。
来る人に喜びを 去る人に幸せを
この椅子に座る人にも 喜びと幸せを与えられるだろうか。
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